フリーランスとして働くあなたは、もしも納期が遅れてしまったり、納品物にバグが発生したりしたらどうなるのかを考えたことはありますか?
実は、企業から仕事を受注するフリーランスには、「損害賠償」が発生するリスクがあります。
会社員であれば、万が一損害賠償を請求されるようなトラブルがあっても、ほとんどの場合は会社が責任を負ってくれます。
ですが、フリーランスは違うんです。
フリーランスは労働基準法上の「労働者」ではなく「事業者」なので、全てが自分の責任となるのです。
フリーランスとして仕事をしていく上で、損害賠償に関する問題は絶対に目を背けてはいけません。
何も知らないまま放っておくと、あなたは数百万円〜数千万円の損害賠償を負わされることにもなりかねませんから。
そこで当記事では、
- フリーランスが想定しておくべき損害賠償の請求事例
- 損害賠償のリスクを避けるためにやっておくべきこと
- フリーランスでも加入できる損害賠償責任保険
についてを紹介していきます。
当記事を最後まで読めば、あなたも損害賠償に関する適切な対策を取って、事前にトラブルを予防できるようになります。是非参考にしてみてください!
当記事は、現役弁護士として5年の経験を持ち、主にベンチャーの顧問業を中心に活動しているちひろ先生(@endo_law)が監修しています。
フリーランスに損害賠償が請求される4つのケースと対策
フリーランスに起こり得る損害賠償への対策を進めるためには、まずその事例についてを事前に知っておかなければなりません。
そこで、フリーランスに損害賠償が請求されるケースを4つ紹介していきます。
- 情報漏洩
- 納品物の瑕疵
- 納期遅延
- 著作権の侵害
1.情報漏洩
まず一つ目に考えられるのが「情報漏洩」です。
情報漏洩とは、自分が業務上で抱えている企業の機密情報を流出させてしまうことなどを指します。
通常、企業と新規で取引を行う場合は企業との間で機密保持契約を結ぶことが多く、業務中に知った機密情報を第三者に漏洩してはなりません。
と思われるかもしれませんが、自分に悪意がなくても不注意で情報漏洩を起こしてしまうケースもあるのです。
なお、万が一情報を流出させて企業が直接的な損害を被った場合、あなたがそれを補填しないといけなくなるケースもあります。
では、どんな時に情報漏洩が発生してしまうのかというと、それは主に以下の3つです。
- 紛失したPCやスマホなどのデバイスから機密情報が盗まれてしまう
- 第三者にデバイスが乗っ取られて機密情報が盗まれてしまう
- 機密情報を公の場で話してしまう
紛失したPCやスマホなどのデバイスから機密情報が盗まれてしまう
まず一つ目が、PCやスマホなどのデバイスを紛失してしまい、機密情報が抜き取られてしまうケースです。
あなたが気を付けていても、うっかりどこかにPCやスマホを置き忘れてしまうことがあるかもしれません。
その際に企業の機密情報を誰かに盗まれてしまえば、当然ながら損害賠償が発生するリスクは高まります。
第三者にデバイスが乗っ取られて機密情報が盗まれてしまう
次に、第三者にデバイスが乗っ取られてしまい、機密情報が盗まれてしまうケースです。
例えば、カフェなどで無料Wi-fiを利用する際、悪意のある第三者にあなたのデバイスが誰かに乗っ取られてしまう可能性もゼロではありません。
また、情報を盗まれるだけでなく、デバイスを踏み台に犯罪行為に加担させられてしまう可能性まであります。
なので、公共のWi-fiを利用する場合は、その通信に脆弱性が無いか注意しておく必要があります。
機密情報を公の場で話してしまう
そして3つ目が、機密情報を公の場で話してしまうというケースです。
例えば、カフェや居酒屋などでの打ち合わせで、周囲の人に聞こえる声で機密情報を話してしまえば、当然ながらそれは情報漏洩を行なっているに等しいと言えます。
ましてや、機密情報を友人に話しするようなことも絶対に許されないので、機密情報は必ず第三者へ知られないよう注意しておきましょう。
情報漏洩を防ぐための対策
フリーランスのあなたが企業の機密情報を漏洩しないためには、以下のような対策が挙げられます。
- 可能な限り機密情報を持ち歩かない
- PCやスマートフォンデバイスにパスコードをかける
- セキュリティ対策のソフトを導入する
- 公共の場で機密情報を話さない。
予め上記に該当する対策を心がけておけば、情報漏洩のリスクも大きく削減できます。
特に、パスコードやセキュリティ対策ソフトの導入などはすぐにでもできるので、早めの対策を心掛けておきましょう。
2.納品物の瑕疵
2つ目の事例が、「納品物の瑕疵」です。
万が一自分の納品した成果物に瑕疵(バグなど)があった際、それが解消されるまでずっと無償で対応を続けなければならなくなる場合もあり、最悪のケースだと多額の損害賠償を請求されることだってあり得ます。
納品物に瑕疵があって損害賠償を請求された事例
納品物の瑕疵による損害賠償の事例は後を絶えません。
例えば、とあるサイトのリニューアルをフリーランスが担当したものの、お問い合わせフォームがうまく動かず、
すみません…。
見込んでいた営業の成果が出なかったから、1,000万円の損害賠償を請求したいんですけど…。
といったようなトラブルも過去にあったようです。
本事例では、3回ほどクライアントに訪問して謝罪することで許されたそうですが、このようなトラブルはいつ起きてもおかしくありません。
納品物の瑕疵によるトラブルを防ぐ為の対策
納品物の瑕疵によるトラブルを防ぐためには、以下のような対策が挙げられます。
- 契約の時点で納品物に関する責任の範囲を把握しておく
- 契約の時点で瑕疵(バグ)へ対応する期間を短めにしておく
- 成果物を納品する際に瑕疵が無いかをしっかりと確認しておく
納品時にバグが無いかを確認しておくことは言うまでもありませんが、万が一瑕疵が見つかった時の「有償でやるのか」「無償でやるのか」「いつまで対応するのか」といった条件等を契約の際にあらかじめ取り決めしておきましょう。
事前にクライアントと密なコミュニケーションを交わしておくことで、そういった瑕疵に関するトラブルの防止に繋がります。
なので、納品物に瑕疵が無いかしっかりと確認するのと同時に、契約書の内容も細かくチェックしておきましょう。
あらかじめ納品物に関する仕様書を作成しておくという方法も
納品物の瑕疵によるトラブルを避ける為にも、受注の段階であらかじめ仕様書を作成しておくことがクライアントとの紛争の防止に繋がります。
なぜ事前に仕様書を作れば良いのかというと、仕様が決まっていなければ本当に瑕疵なのか否かの判定が困難になる危険性があるからです。
また、契約開始時点で仕様を決め切れない場合でも、仕様決定期限までに確定させておけば、クライアントからの過大な要求を予防する事にも役立ちます。
3.納期遅延
3つ目が、「納期遅延」です。
これは言うまでもありませんが、両者で取り決めた納期はきっちり守って絶対に遅れないようにしましょう。
納期が遅れると相手の機会損失を招きかねませんし、場合によっては多額の損害賠償を請求されるケースだってあり得ます。
たかが「納期」、されど「納期」です。
納期遅延によるトラブルを防ぐ為の対策
あなたがこう思っていたとしても、当初の見積もり工数が甘かったことに納期間近で気づいたり、急病にかかって寝込んでしまったりなどで、納期が遅れてしまう可能性が少なからずあると言えるでしょう。
そこで、あらかじめ納期遅延のリスクを防ぐための対策をいくつか紹介していきます。
- 余裕を持ったスケジュールで成果物を納品する
- 工程を複数に分けて納期を設定しておく
- 納期が遅延しそうな場合に調整可能な条項を契約書に入れる
- 納期が遅延しそうな場合に予め費用や期間を協議する
余裕を持って成果物を仕上げていくことは当然ですが、なるべく納品物の工程を複数に分け、それぞれのプロセスで納期を設定しておくのも一つの手です。
細かく納期を設定しておけば、納品物の大きな遅れを防止できる上、クライアント側も大まかな納品物の工程を把握しやすくなります。
また、どうしても納期が遅延しそうな場合は、事前にクライアントへ連絡し、費用や期間を協議してトラブル防止に繋げましょう。
4.著作権侵害
そして、最後が「著作権」です。
エンジニアが作成したソースコードやWEBライターが書いた原稿など、それらの納品物は著作権が会社に帰属する場合が多々あります。
ライターであれば、文章や写真の無断引用や、一度クライアントに納品した文章の無断転載などは著作権の侵害になる場合があります。
また、エンジニアであれば、自分がプライベートで書いたソースコードの著作権を企業に渡してしまわないよう気をつけておきましょう。
仮に、自分がオリジナルで作ったプログラムの一部を企業の納品物の中で書いてしまえば、以後ずっとそのプログラムの著作権が納品先の企業に帰属してしまう場合もあります。
なので、自身の納品物が著作権の侵害になっていないか注意しておきましょう。
仮に、著作権に違反した納品物が企業で公開されると、公開した企業が損害賠償を請求されることとなり、被害を受けた企業が納品者である自分を訴えてくるというケースもありえます。十分に気をつけておいてください。
著作権侵害によるトラブルを防ぐための対策
著作権侵害によるトラブルを防ぐためには、主に以下のような対策が挙げられます。
- 事前に契約書を見て著作権についてを確認しておく
- ライターなら引用部分は必ず引用元を明記し、文章の使い回しなどは絶対にしないよう心掛ける
- エンジニアなら著作権が企業に帰属するような案件で、プライベートなプログラムを書かないようにする
クリエイターの場合、自分の作った成果物が第三者の著作権に触れないかどうかを必ず確認しておき、企業と法的紛争が起こらないように対策を練っておきましょう。
業務委託契約書を確認して損害賠償のリスクを回避しよう
以上が損害賠償の発生しえる4つの事例でしたが、損害賠償のリスクを回避する為には、事前に「業務委託契約書」を念入りに確認し、必要であればクライアントと契約についてをしっかりと交渉していかなければなりません。
以下より、過大な損害賠償を避けるための重要なポイントを3つ紹介していきます。
- どういう時に損害賠償が発生するかを確認する
- 損害賠償の範囲を限定しておく
- 損害賠償が発生した時の金額やその上限を把握しておく
1.どういう時に損害賠償が発生するかを確認する
契約書では、損害賠償が発生するのは「過失」があった場合なのか、それとも「重大な過失」があった場合なのかといった部分を確認しておきましょう。
単純な「過失」と「重大な過失」は、似たような言葉ですがその意味は大きく異なります。
- 過失・・・不注意でしでかす思わぬ過ち
- 重大な過失・・・故意と同等な程度に注意義務に違反するような過ち
簡単に言うと、「過失」は自分の不注意でおきたことで、「重大な過失」はもはやわざとと言えるようなレベルで自分がおこしたこと、といったところでしょうか。
なので、損害賠償が発生する条件を「重大な過失」に絞っておけば、不注意によって起こり得るようなトラブルのリスクを抑えられるでしょう。
2.損害賠償の範囲を「直接損害」のみに限定しておく
そして、契約の際は、できるだけ損害賠償の範囲を「直接損害」だけに限定しておきましょう。
直接損害とは、自身が関わった作業や成果物などから直接的に生じた損害のことを言います。
これに対し、自身の関わった作業や成果物以外のものが要因で間接的に生じた損害のことを「間接損害」と言いますが、契約の時点で損害賠償の範囲を直接損害のみに絞っておけば、あなたが被る損害賠償の範囲も狭められます。
3.損害賠償が発生した時の金額やその上限を定めておく
そして、契約書では万が一損害賠償が発生した場合の金額の上限も確認しておきましょう。
損害賠償額の上限は「その仕事の報酬額まで」に設定しておくのがベストです。
その場合だと、50万円の仕事なら損害賠償額の上限も50万円となります。
予め上限を設定して把握しておけば、自分の想像を超えるような賠償額を請求されるリスクを制御できるでしょう。
フリーランスは損害賠償責任保険に加入しよう
と疑問を持つ方も多いかもしれませんが、実はフリーランスでも損害賠償を補償してもらえる「フリーランス向けの損害賠償責任保険」があります。
フリーランス向けの損害賠償保険のメリット
フリーランス向けの損害賠償責任保険とは、企業から業務委託を受注するようなフリーランス向けに提供される保険サービスです。
フリーランス向けの損害賠償責任保険に加入しておけば、上述したような業務を遂行していく上で起こり得る「情報漏洩」や「納品物の瑕疵」「著作権の侵害」などの損害賠償に対する補償が受けられます。
なお、損害賠償保険に加入しておくことで、受注先企業に対して、万が一のことがあっても大丈夫だという「安心の証明」として使えるメリットがあります。
代表的なフリーランス向けの損害賠償責任保険サービス
では、代表的なフリーランスの為の損害賠償責任保険サービスを紹介していきます。
FREENANCE(フリーナンス)
出典:FREENANCE
FREENANCE(フリーナンス)とは、GMOクリエイターズネットワーク株式会社が提供している、フリーランスのためのお金と保険のサービスです。
フリーナンスでは「収納代行」や「請求書の買取り(即日払い)」などのサービスが入会金0円で利用できるメリットがありますが、その中に「フリーナンスあんしん補償」と呼ばれるフリーランス向けの損害賠償責任保険サービスが無料で組み込まれています。
その補償額ですが、種類によっては1事故あたり最高5,000万円、そして期間中の限度額は5億円に設定されています。
出典:FREENANCE
これだけの補償も、フリーナンスのあんしん補償なら「全て0円」で利用できるので、この機会に是非新規登録してみてください!
フリーランス向け無料保険サービス「フリーナンス」の詳細記事はこちら!▼
フリーランス協会
出典:フリーランス協会
フリーランス協会(プロフェッショナル&パラレルキャリア・フリーランス協会)とは、「誰もが自律的なキャリアを築ける世の中へ」というコンセプトのもとで運営される、フリーランスとして仕事をしたい人のためのコミュニティです。
このフリーランス協会には「ベネフィットプラン」と呼ばれるサービスがありますが、同プランを利用することで、フリーランス賠償責任保険に加入して最大10億円までの補償を受けられます。
出典:フリーランス協会
なお、フリーランス協会の年会費は1万円で、保険だけでなく福利厚生や所得保障制度なども充実しています。
弁護士保険に加入しておく手も
なお、法的トラブルに心配を寄せるような方は、「弁護士保険」に加入しておくのも選択肢の一つです。
弁護士保険とは、法的トラブルによって弁護士への相談・依頼を行なった際に発生する費用を補償する保険のことであり、主に以下のような弁護士保険サービスが存在しています。
リーガル(フェリクス少額短期保険)
出典:フェリクス少額短期保険
リーガルとは、フェリクス少額短期保険株式会社が提供する弁護士保険サービスであり、取引先との納品やクレームに関するトラブルに対応してもらえます。
なお、リーガルは最低約5千円/月の保険料で加入でき、プランによって内容や料金も異なっています。
出典:フェリクス少額短期保険
気になる方は、是非リーガルを利用してみてください。
Mikata(プリベント少額短期保険)
出典:Mikata
Mikataとは、プリベント少額短期保険株式会社によって提供されている弁護士保険サービスであり、月額保険料は約3千円から加入できます。
なお、Mikataは24時間365日いつでも電話で相談可能なので、「法的トラブルに関するリスクを極力最小限にしたい」と考える人は是非利用してみてください!
まとめ:フリーランスは損害賠償に気をつけておこう
フリーランスに損害賠償が請求される4つのケース
- 情報漏洩
- 納品物の瑕疵担保
- 納期遅延
- 著作権の侵害
損害賠償契約書で確認しておくべきポイント
- どういう時に損害賠償が発生するかを確認する
- 損害賠償の範囲を限定しておく
- 損害賠償が発生した時の金額やその上限を把握しておく
フリーランスにおすすめの損害賠償保険サービス
以上、フリーランスとして仕事をしていくのであれば、損害賠償に十分注意しておく必要があります。
しかし、今回の内容をしっかりと実践していけば、あなたも損害賠償に関する適切な対策を取り、事前にトラブルを予防できるようになれるでしょう。
なお、「いくら契約書を確認していても不安が消えない。」という方は、上述したフリーランス向けの損害賠償責任保険の活用をおすすめします。
フリーランスは会社員とは異なり、誰も自分の失敗をカバーしてくれません。
自分の責任は、自分で負わなければならないのです。
なので、自分の身は自分でしっかりと守って行きましょう!
初雁総合法律事務所所属、弁護士5年目。 直近3年弱、会社員と法律事務所経営を平行したが、自由業になるべく、年号と共に会社員を卒業し、現在はベンチャーの顧問業を中心に活動している。